◆病気に対する東洋医学の考え方
人は誰でも健康でいたいもの。でもその願いがなかなか叶えられないのも事実です
ね。
東洋医学には「未病(みびょう)」という考え方があり、「半健康で、病気に進行
しつつある状態」のことを表します。
今現在、病気の兆候が表れていないから「健康」というわけではありません。
「未病」を”病気に進みつつある状態”と考えて、早い段階でそのサインを認識し、適
切な手を打つことで、進行を抑え、本格的な病気に移行することを防ごうとする考え
方です。
いわゆる「早期発見、早期治療」ですね。
このように、常に自らの生活習慣に気を配り心身のバランスを取りながら、生体
本来の状態により近い状況にもっていこうとする姿勢を、東洋医学の世界では「中庸
(ちゅうよう)」と呼んでいます。
私達の身体には本来「治癒力(ちゆりょく)」、つまり自らの回復力が備わっ
ているということはご存じだと思います。
病気になってしまったときに、やたらと薬に頼るのではなく、自らの回復力を活性
化し、もともとの生命力を十分に活かす方向にもっていくように意識することも大切
なのではないでしょうか。
その方法の一つとして、鍼(はり)やお灸(おきゅう)、あん摩・指圧・マッサー
ジなどは、無理なく身体に働きかける療法としてお勧めできます。
また、東洋医学では、心と体はひとつであるとする「心身一如(しんしんいちに
ょ)」の考え方に基づき、古くから全身状態を改善させる治療を行ってきました。
患者さんが示す症状は、体全体の不調が患者さんの心身の一番弱い部分に現れたも
のにすぎず、特定の場所の異常だけのように見えても障害は全身に及んでいることも
あるとする考え方です。
全身の調子を整えながら局所の改善を図っていき、最終的には、その症状が起こり
にくい身体に導くという目標を持って治療を進めていくことから、予防医学としても
期待されています。
◆鍼灸って?
鍼灸(はり・きゅう)は、生体の中を巡る「気血(きけつ)」の循環を改善し、全
身の調子を整える東洋医学の代表的な療法の一つです。
中国では20万年前から、身体の具合の悪い人に対して焼いた石などで局所を温め
たり、1万年前には、膿を出す時などに動物の骨を加工した鍼(はり)が利用されて
いたと言われています。
また、紀元前1世紀末には、それまでの鍼灸(しんきゅう)
医学の理論と臨床を集大成した「黄帝内経(こうていだいきょう)」が編纂されてい
ます。
鍼灸が日本に伝わったのは、6世紀後半と言われています。長い間、日本各地で医
療の中心的療法の一つとして広く行われていましたが、明治時代の始まりとともに、
法律によって日本の医療の主流は西洋医学に取って代わり、鍼灸は民間療法と位置づ
けられることとなってしまいました。
第2次世界大戦後、鍼灸は医療類似行為として免許制になり、1970年に『按摩
マッサージ指圧師、鍼師、灸師に関する法律』として改正され、現在に至っています。
近年では、NIH(米国国立衛生研究所)も鍼灸療法の各種の病気に対する効果と
その科学的根拠、西洋医学の代替治療として有効であるという見解を示し、WHO
(世界保健機関)でも、その有効性について認められています。
我が国においても、神経痛やリウマチ、五十肩などいくつかの疾患については健康
保険の適用が認められており、そのことは鍼灸の有効性が臨床的にも認められている
ということの証です。
現在、鍼灸師になるためには、高校卒業後、鍼灸医学を教える専門学校や短大、大
学を卒業し、国家試験に合格するのが条件となっています。
大学院修士過程、博士過程もあり、鍼灸治療の効果を科学的に解明しようとする研
究者も増えてきています。
◆鍼灸で期待される効果
鍼(はり)は刺入による刺激、灸(きゅう)は温熱刺激で、生理学的な作用には違
いがありますが、経穴(けいけつ:ツボ)を介しての効果は大変よく似ています。
疲労が重なると真っ先に出現する頭痛や、肩こり、腰痛の他に、婦人科疾患、胃腸
病、肌のトラブルなどにも効果が期待されます。
慢性疾患はもとより、風邪や中毒などの急性疾患にも効果的な治療ができるとされています。
■ WHO(世界保健機関)で鍼灸療法の有効性が認められている疾患
【神経系疾患】
神経痛、神経麻痺、痙攣、脳卒中後遺症、自律神経失調症、頭痛、めまい、不眠、
神経症、ノイローゼ、ヒステリー
【運動器系疾患】
関節炎、リウマチ、頚肩腕症候群、頚椎捻挫後遺症、五十肩、腱鞘炎、腰痛、外傷
の後遺症(骨折、打撲、むちうち、捻挫)
【循環器系疾患】
心臓神経症、動脈硬化症、高血圧低血圧症、動悸、息切れ
【呼吸器系疾患】
気管支炎、喘息、風邪および予防
【消化器系疾患】
胃腸病(胃炎、消化不良、胃下垂、胃酸過多、下痢、便秘)、胆嚢炎、肝機能障害、
肝炎、胃十二指腸潰瘍、痔疾
【代謝・内分秘系疾患】
バセドウ氏病、糖尿病、痛風、脚気、貧血
【生殖、泌尿器系疾患】
膀胱炎、尿道炎、性機能障害、尿閉、腎炎、前立腺肥大、陰萎
【婦人科系疾患】
更年期障害、乳腺炎、白帯下、生理痛、月経不順、冷え性、血の道、不妊
【耳鼻咽喉科系疾患】
中耳炎、耳鳴、難聴、メニエル氏病、鼻出血、鼻炎、ちくのう、咽喉頭炎、へんと
う炎
【眼科系疾患】
眼精疲労、仮性近視、結膜炎、疲れ目、かすみ目、ものもらい
【小児科疾患】
小児神経症(夜泣き、かんむし、夜驚、消化不良、偏食、食欲不振、不眠)、小児
喘息、アレルギー性湿疹、耳下腺炎、夜尿症、虚弱体質の改善
※上記疾患のうち、「神経痛、リウマチ、頚肩腕症候群、頚椎捻挫後遺症、五十肩、
腰痛」の6疾患は、日本でも医師の同意に基づく鍼灸の健康保険の適用が認められて
います。